ご神木

この旅は目的地に近づくにつれて山が深くなり、
森の密度が濃くなっていった。
昼なお暗いその森は、確かに神々しいものがあった。 
常になにかに見つめられているような気配すらしていた。
今、目の前にしている巨木は、ご神木としてこの広い境内の片隅に
堂々と立っていた。
絶えず人が行き交うその場所で、この大きな木は、
いつも私たちを静かに見つめている。
森で見る木々も、そしてこの目の前の着飾された神木も、
人はそこに「魂」を感じるからこそ、こうして崇めてきた
のだろうと思う。
目には見えないものの、そこに「気配」を感じていたから、
手を合わせてきたのだろうと思う。
神が宿ると言われる熊野だけが、決して特別な場所ではない
のではないだろうか。
そこに想いをよせることが出来たなら、
きっとそこは自分だけの大切な、そう、それこそ神聖な場所になる。
朗らかなの表情のこのご神木が、優しくそう語ってくれているような気がしてならなかった。

 
熊野街道
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Photo&Essay:Shuji Enmando